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釧路家庭裁判所 昭和46年(少ハ)1号 決定

本人 H・U(昭二五・四・四生)

主文

本件収容継続申請は棄却する。

理由

一  本件収容継続申請の理由の要旨

上記在院者は、昭和四四年一二月一二日傷害・強要・強姦未遂・道路交通法違反各保護事件により釧路家庭裁判所で特別少年院に送致する旨の決定を受け、ついで昭和四五年一月二二日千歳少年院長により少年院法一一条一項但書に基づき同年一二月一一日まで収容を継続され、さらに同年一二月一〇日同裁判所で収容継続決定がなされ、昭和四六年七月三一日をもつて所定の期間を満了するものであるが、反則行為により進級が遅れ、同年八月一六日ころ最高処遇段階である一級上に達するものと予想され、現在では安定した生活をし成績は向上しているが、なお情緒的に不安定で衝動的に行動しやすく自己統制力に欠ける点があるので、最上級生としての教育を施すことが望ましく、そのためには一級上に達してから三ヵ月間の教育期間を必要とする。

二  調査審判の結果認定できる主な事実

(1)  上記在院者は、昭和三九年六月二五日初等少年院送致(虞犯・窃盗、昭和四〇年六月一日仮退院)、昭和三九年八月六日審判不開始(窃盗)、昭和四一年五月二四日中等少年院送致(虞犯・窃盗・恐喝未遂・強盗、昭和四二年四月二七日仮退院)、昭和四一年六月三日審判不開始(窃盗)、同年七月一五日審判不開始(道路交通法違反)の処遇の後、傷害・強要・強姦未遂・道路交通法違反各非行により昭和四四年一二月一二日特別少年院に送致する旨の決定を受け、同月一七日から千歳少年院に収容された。

(2)  上記在院者の処遇経過は、昭和四五年一月二二日少年院法一一条一項但書に基づき同年一二月一一日まで収容継続、同月二七日不正頭髪、落書により謹慎一〇日、同年三月二六日不正頭髪により謹慎五日、同年四月九日落書により謹慎七日、同月二三日落書により課長説諭、同年七月一日二級上進級、同月九日指示違反により院長訓戒、同年八月二五日職員暴行により三級に降下謹慎二〇日、同年一〇月六日二級下に復級、同年一一月一七日不正通信授受により謹慎三日、同年一二月一日二級上復級、同年一二月一〇日当裁判所により昭和四六年七月三一日まで収容継続する旨の決定、昭和四六年一月一九日暴行、抗命により二級下に降下謹慎二〇日、同年二月二〇日二級上に復級、同月二一日久里浜少年院へ移送((翌二二日同院移入)、同年五月一七日一級下に進級というもので、収容継続決定を受けるまでは自暴自棄的な顕示的行動にはしつていたが、右決定直後に一回反則行為をおかしたことがあるものの、その後は努力して抑制につとめ、少年院がかわつたこともあつて落着いた安定した生活を送るようになり、六ヵ月以上無事故という良好な成績を納め、本人なりに努力し向上していることが認められる。

(3)  上記在院者は現在職業補導としては板金科において補導を受けているが、本人は普通自動車運転免許を所持していることもあつて、板金関係の仕事につく意思は全くなく、右運転技能を生かして、鮮魚運搬をしながら、さらに第二種運転免許・大型自動車運転免許を取得することを望んでいる。

(4)  上記在院者の帰住予定地は両親方があてられ、両親とも在院者本人の教育・就職先等についても心を配り、本人の希望する車関係の職場をさがすべくその態勢を整えつつあり、祖母の健康状態がおもわしくないこともあるので、一日も早い退院を望んでいる。

(5)  上記在院者の衝動的激情的で即行的に行動しやすい性格や粗暴的傾向は未だ十分矯正されたとはいえないが、院内の生活を通じ職員の適切な配慮と本人の努力により次第に矯正の効果をあげていることが窺われ、現時点においては、社会復帰についての特段の障害となるとは考えられない。

三  結論

上記の(1)ないし(5)によると、在院者本人の矯正にはなお長期にわたる努力が必要であるが、必ずしも収容によるのが最良のものとは思われず、かえつて本人に対し再度の収容継続をすることは、従前にもまして自暴自棄にさせ、前収容継続決定後本人なりに考え、向上しようとしている意欲を喪失させ、またこれまでの少年院における矯正教育の効果を無にしてしまう危険がある。そのうえ本人の年齢、これまでの少年院収容歴、今回の入院以来の成績・経過等に照らすと、本人に対する収容による矯正教育の効果はすでに限界に達したかの観があり、これから先の収容継続によつて現段階以上の格段の効果をあげることを期待するのは相当困難であるといわざるをえない。

以上の諸点およびその他本件調査審判の結果明らかとなつた一切の事情を併せ考えると、現段階において再度の収容継続をするよりも、この際思いきつて本人を即時退院させ、一般社会に復帰させて、今後は既に二一歳三ヵ月になつた本人の自覚と努力に期待し、自らの責任のもとに更生の道をすすませるのが相当と思料される。

なお在院者本人は現在は未だ一級下に属しており、少年院の退院基準に達しておらず、このまま退院させることは他の在院者に対しかなりの好ましくない影響を与えるであろうと推測されるが、それは別途方法を講ずるべきであり、これをもつて本件収容継続の必要性を左右することはできない。

よつて、本件収容継続申請は理由がないものとして棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 赤塚信雄)

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